テレプシコーラ(山岸凉子著)

あの「アラベスク」を描いた山岸凉子が、久々にバレエマンガを連載、しかもそれが話題になっているらしい。
以前にそんな噂を聞きつけ、とりあえず最初のほうだけ読んでみた。
はっきりいって、怖い。それ以上読むのをやめた。
人間の闇の部分を題材にしたマンガは数多くある。暴力・異常性愛・猟奇殺人等々。
しかし、その大部分は過激さでインパクトを狙っただけ。全く真に迫っておらず、今やむしろありふれていて軽く読み流せてしまうようなもの。
が、中には過激描写の有無とは関係なく、その闇が感じられるようなものが稀にある。
そんな匂いがこのマンガにはした。それで怖くなったのだ。
そっからだいぶ経っても、やはり耳に入ってくるし、旬のマンガを、それも巨匠といっていい作家のものを今読まないのは惜しいという気持が高まってきた。
数年ぶりにトロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団の公演を見に行くことだし(意味不明)、思い切って読んでみよう!と一気に買い込んだ。

うーん、やはりすごい。
バレエの裏の部分を、てんこ盛りに描き込んである。
優雅な白鳥は水面下では…なんて生やさしいものではなく、人間の肉体を極限まで使った表現での頂点と言われるものは、それと引き替えにするものも半端でなかった。
また、その重いテーマだからこそ、あえてステレオタイプな少女漫画の主人公なのだが、その心理描写が子供時代のあの独特の不安さをよく捉えており、こちらもそれに同調して、何か起こりそうになるたび乙女のようにプルプルしてしまうのだ。
アラベスクから年月を経て、描き足りなかったこと、新たに描きたいこと、溜まった思いが噴出した感がある。
バレエという基盤は同じでも、アラベスクは当時のソビエトならでは、テレプシコーラは今の日本ならでは。何故今頃?なのではなく、今だからこその作品だとわかった。
それにしても、どうしてこの人はこれだけのものを描けるのだろう。
確か24年組の中に入ってたと思うので、年齢はおそらく五十も半ば。
男性作家陣でこのへんの年齢だと、スタイルも完全に確立し、というかむしろ自分の過去の作品の焼き直しをするだけの、自己模倣作家が多い。
マンガの神様とまで言われ、第一線であることに固執し様々な新手法を導入したあの人でさえ、晩年の十年ぐらいは時流に乗っていたとは言い難いのに。
そういや24年組の面々は、決してネームバリューで仕事とってるのでなく、現役バリバリで頑張ってる人多い。
絵のタッチもスタイルもどんどん変えながら、新しい境地を開拓していく。
この人達のパワーはなんなんざましょ。
世代?女流?独身?似た仲間だとやはり刺激し合うから?
ちと興味深い。
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